こんにちは.物理学科3年のくてです.先日は締切にほんの少しの余裕ができたため,京都・兵庫へ高校同期と小旅行に行きました.温泉にて身体を癒やしたのも束の間,帰宅翌日の発表資料に未着手だったことを思い出し,再び現実と向き合うことになりました.課題,滅びないかな.
さて先日の記事では1次元系での$Z_2$指数について雑に触れました.もう少し書いておきたいなという気持ちが残っていたので,本記事では2次元系の$Z_2$指数について触れようと思います.
時間反転分極とは,時間反転対称性のある系において,時間反転で結ばれたKramers 対のバンドの間の電気分極の差を見たものです.1次元2バンド系では$Z_2$量,すなわち$0, 1$という値を取る量です.物理的には表面におけるKramers 縮退の有無を特徴づける量と解釈されます.($Z_2$ というのは整数全体からなる群$Z$を偶数と奇数の2つに分けた商群のことを表します.$Z_2$量である,というときには$0,1$のニ値を取る量であることを意図します.)電気分極で定義されているので,電気分極と同様に,余分な電荷を表面に付与してあげると時間反転分極は変化します.そのため,時間反転分極という量はそれ自体では無意味な量です.
しかし,バルク Hamiltonian の断熱変化に伴う時間反転分極の変化分は意味を持つ量です.例えば2次元バンド構造を特徴づけるトポロジカル不変量はシリンダー状の量子 Hall 系を考えることで得られます.この系を,図1のように磁束量子の半分 $h/2e$ が通過したときの時間反転分極の変化$\Delta$を考えると,$\Delta$はトポロジカル絶縁体を区別する指標となります.
図1.
以後,本記事ではトポロジカル絶縁体を区別する指標となる$Z_2$量を$Z_2$指数と呼ぶことにします.(同じ量に対して$Z_2$量とか$Z_2$指数とか$Z_2$不変量とか色々な名前で呼ばれることがありますが,考えている量のどの性質に着目しているかで呼び名が変わっているだけのようなので,対して気にしなくても良いと思います.)
前節で2次元バンド構造を特徴づけるトポロジカル不変量は,図1のような長いシリンダー状の系を考えることで得られると書きました.もう少し話を進めます.図1のシリンダー状の量子系の2次元Brillouin zone を考えると,図2のようになります.つまり$\Gamma_{ij}(i,j=1,2)$と等価な点が繰り返し現れることになります.この$\Gamma_{ij}$は時間反転対称運動量と呼ばれます.そして各$\Gamma_{ij}$に対して$Z_2$指数
$$ \delta_{ij} = \frac{\sqrt{\det[w(\Gamma_{ij})]}}{\text{Pf} [w(\Gamma_{ij})]} $$
を計算できます[*2].Pfaffian は二乗すると行列式を与えるので,$\delta_{ij}$は$\pm1$のニ値を取ります.$\delta_{ij}$単独では符号の曖昧さが残ります.一方で
$$ \pi_1 = \delta_{11}\delta_{12}, \\ \pi_2 = \delta_{21}\delta_{22}\, $$
という量を考えると,Brillouin zoneの$k_z$方向に関して一周期分の積分を見ていることに相当するので符号は定まります.また行列$w(\bf{k})$は,時間反転演算子$\Theta$とBloch 関数$|u_{n,\text{\bf{k}}}\rangle$を用いて
$$ w_{mn}(\text{\bf{k}})\coloneqq \langle u_{m,-\text{\bf{k}}}|\Theta|u_{n,\text{\bf{k}}}\rangle $$